遺言書の準備とは?種類と書き方の基本を解説

遺言書の準備とは、「自分の財産を、誰に、どう渡すか」を法的に有効な形で書き残しておく作業のことです。結論から言えば、まず用意すべきは自筆証書遺言か公正証書遺言のどちらか。争いを避け確実に残したいなら、費用は数万円〜十数万円かかりますが公正証書遺言が最も安全です。財産の額に関わらず、相続人が2人以上いる、あるいは「渡したい人」がはっきりしている人は、元気なうちに準備しておくのが正解です。
この記事のポイント
- 遺言書には主に3種類あり、多くの人は「自筆証書」か「公正証書」で足りる
- 自筆証書は費用ほぼ0円だが不備で無効になりやすい。公正証書は数万円〜だが確実
- 2020年から法務局で自筆証書遺言を預かる制度が始まり、紛失・改ざんリスクが下がった
- 書き方には守るべきルールがあり、1つ欠けるだけで全体が無効になることもある
- 迷ったら財産の棚卸しから。専門家や相談窓口に早めに相談するのが安心
遺言書はなぜ必要?準備の全体像
正直なところ、「うちは財産も少ないし、もめるほどじゃない」と考える方はとても多いです。ですが実際に相続トラブルになるのは、資産が数千万円以下のいわゆる「普通の家庭」が全体の7割以上を占めるといわれます。裁判所の統計でも、遺産分割で争われた事案の約3割は遺産額1,000万円以下というデータがあり、「もめるのは資産家だけ」という思い込みは危険です。理由はシンプルで、分けにくい自宅不動産が財産の大半を占めるケースが多いからです。たとえば財産が「自宅2,500万円と預金300万円」だけの場合、子ども2人で公平に分けようとすると自宅を売るしかない、という事態になりがちです。
遺言書がないと、相続財産は相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で分けることになります。全員の実印と署名が必要なので、一人でも「納得いかない」と言えば手続きは止まります。連絡の取れない相続人が一人いるだけで、預金の解約も不動産の名義変更も進まず、何年も宙に浮くことも珍しくありません。遺言書は、この話し合いそのものを不要にし、あなたの意思をそのまま反映させるための道具です。
こんな人は特に準備しておきたい
- 子どもがいない夫婦(配偶者と兄弟姉妹が相続人になり、話がこじれやすい)
- 再婚していて、前の配偶者との間にも子どもがいる
- 相続人以外(お世話になった嫁、内縁のパートナーなど)に財産を渡したい
- 自宅など、分けにくい財産が中心
- 事業や農地など、特定の人に承継させたいものがある
こうしたケースでは、遺言書があるかないかで結果がまるで変わります。とくに子のいない夫婦では、遺言がないと配偶者が財産の4分の3、亡くなった方の兄弟姉妹が4分の1を受け取る計算になり、「全部妻に」と思っていても自動的にはそうなりません。逆に言えば、独身で相続人が一人だけ、という場合は優先度が下がることもあります。ケースによりますが、「渡し方に自分の希望がある」なら書いておいて損はありません。
準備の第一歩は「財産の棚卸し」
いきなり文面を書き始める必要はありません。まずは財産のリストアップから。預貯金、不動産、株式や投資信託、生命保険、そして借金やローンといったマイナスの財産も含めて洗い出します。不動産は毎年届く固定資産税の納税通知書、預金は通帳やネット銀行の口座一覧が手がかりになります。次に「誰に何を渡したいか」を整理する。この2つが決まれば、遺言書の中身はほぼ固まったも同然です。実は、この棚卸しの段階で家族と一度話しておくと、後のトラブルがぐっと減ります。財産を全部書き出すのが大変なら、「主な財産+その他一切」という書き方でも構いません。棚卸しをしてみて初めて「思ったより不動産の割合が大きい」「使っていない口座が残っていた」と気づく方も多く、この作業自体が老後の資産整理にも役立ちます。
遺言書の種類と書き方の基本
遺言書には民法上3つの方式があります。特別な事情がない限り、選ぶのは「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」のどちらかです。
自筆証書遺言(手軽だが不備に注意)
自分で全文を手書きし、日付・氏名を書いて押印する方式です。費用はほぼ0円で、思い立ったその日に作れるのが最大のメリット。ただし要件が厳格で、日付が「2026年8月吉日」のように特定できないと無効、押印がない、パソコンで本文を打ってしまった、といった小さなミスで全体が無効になることがあります。加筆・訂正の仕方にも細かいルールがあり、二重線で消して押印し欄外に変更内容を書く、といった方式を守らないと訂正部分が認められません。書き直すときは、面倒でも一から新しく書き直すのが確実です。
2019年の法改正で、財産目録だけはパソコン作成や通帳コピーの添付が認められ、少し負担が減りました。さらに2020年からは、法務局が自筆証書遺言を預かる「保管制度」(手数料3,900円)が始まり、紛失や家族による改ざん、発見されないリスクが下がっています。この制度を使うと、相続開始後の家庭裁判所での検認も不要になります。よくあるのが「書いたのに誰にも見つけてもらえなかった」「仏壇の引き出しにあったが古い遺言だった」という失敗なので、自筆で作るならこの保管制度の利用を強くおすすめします。
公正証書遺言(費用はかかるが最も確実)
公証人が本人から内容を聞き取り、法的に有効な形で作成・保管してくれる方式です。証人2名が必要で、費用は財産額に応じて数万円〜十数万円かかります(財産5,000万円程度で5万円前後が目安)。証人は相続人やその家族はなれないため、適任者がいなければ公証役場や専門家に紹介してもらえます。
メリットは何といっても確実性です。公証人がチェックするので不備で無効になる心配がほぼなく、原本は公証役場が保管するため紛失・改ざんもありません。さらに、自筆証書で必要な家庭裁判所の「検認」手続きも不要なので、相続開始後の手続きがスムーズです。手足が不自由で字が書けない方や、寝たきりで外出が難しい方でも、公証人に出張してもらえば作成できます(出張の場合は手数料が5割増しになります)。財産が多い、相続人の関係が複雑、確実に残したい――そんな方はこちらが安心です。
秘密証書遺言はあまり使われない
内容を秘密にしたまま存在だけを公証役場で証明する方式もありますが、手続きが煩雑な割にメリットが薄く、現在ほとんど使われていません。基本は前の2つで考えて問題ありません。
書き方で押さえるべき基本ルール
方式を問わず、意識したいポイントがあります。財産と渡す相手を具体的に特定すること(「預金」ではなく「〇〇銀行△△支店の普通預金 口座番号1234567」など)。人物も「長男の太郎」だけでなく生年月日を添えると確実です。遺言を執行する「遺言執行者」を指定しておくと、相続人全員の同意がなくても名義変更や解約が進み、手続きが円滑になります。そして、配偶者・子・親などの法定相続人には最低限保障された取り分「遺留分」があるため、特定の人に全部渡す内容は後で争いの火種になりがちです。たとえば子ども2人のうち1人に全財産を渡すと、もう1人は遺留分(この場合は本来の取り分の半分=全体の4分の1)を請求できます。遺留分にも配慮した配分を考えておくと安心です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 遺言書は何歳から作れますか?
A1. 満15歳以上であれば誰でも作成できます。認知症などで判断能力が低下すると作れなくなるため、元気なうちに、できれば60〜70代のうちに準備する方が多いです。判断能力が疑われる状態で作った遺言は、後から無効を争われることもあります。
Q2. 一度書いた遺言書は書き直せますか?
A2. 何度でも書き直せます。内容が矛盾する複数の遺言がある場合は、日付が最も新しいものが優先されます。結婚・離婚、財産の増減、相続人の死亡など状況が変わったら、そのつど更新しましょう。
Q3. 自筆証書と公正証書、結局どちらがいいですか?
A3. 手軽さと0円を重視するなら自筆証書+法務局保管、確実性を重視するなら公正証書です。財産が3,000万円を超える、相続人がもめそう、字を書くのがつらい、といった場合は公正証書が無難です。
Q4. 費用はどれくらいかかりますか?
A4. 自筆証書はほぼ0円(法務局保管でも3,900円)。公正証書は財産額に応じ数万円〜十数万円、専門家に文案作成を頼むと別途10万〜20万円程度が目安です。金額は財産の内容によって変わるため、事前に見積もりを取ると安心です。
Q5. 遺言書がないとどうなりますか?
A5. 相続人全員での遺産分割協議が必要になります。一人でも反対すれば手続きが進まず、預金の引き出しや不動産の名義変更が止まることもあります。相続人に認知症の方や行方不明の方がいると、さらに手続きが複雑になります。
Q6. エンディングノートでも代わりになりますか?
A6. なりません。エンディングノートに法的効力はなく、あくまで希望を伝えるメモです。財産の分け方を法的に確定させたいなら、正式な遺言書が必要です。両方を併用し、遺言書に書ききれない思いや葬儀の希望をノートに残すのが理想的です。
Q7. 相続人以外の人に財産を渡せますか?
A7. 渡せます。遺言書で「遺贈」として指定すれば、内縁のパートナーやお世話になった人、団体にも財産を残せます。ただし相続人の遺留分には配慮が必要で、渡す相手に相続税がかかる場合もあるため、事前の確認をおすすめします。
まとめ
- 遺言書は財産の多い少ないに関わらず、「渡し方に希望がある人」全員に意味がある
- 主な選択肢は自筆証書遺言(費用ほぼ0円だが不備に注意)と公正証書遺言(数万円〜だが確実)
- 2020年開始の法務局保管制度で、自筆証書のリスクは大きく下がった
- まずは財産の棚卸しと「誰に何を」の整理から。遺留分への配慮も忘れずに
- 制度や費用の詳細は変わることもあるため、最終的にはお住まいの自治体や専門家に確認を
遺言書の準備は、残される家族への一番やさしい贈り物だと言われます。とはいえ「何から手をつければいいか」「誰に相談すればいいのか分からない」という声も本当に多いものです。そんな時は、介護・相続・保証まで福祉のことをまとめて相談できる「福祉のまどぐち」に、まず気軽に声をかけてみてください。あなたの状況に合った次の一歩を、一緒に整理します。

