障がいのある子の「親なきあと」に備えるには?対策を解説

障がいのある子の「親なきあと」に備えるには、答えを一つに絞れば「お金の仕組み」「生活と住まいの場」「意思決定を支える人」の3本柱を、親が元気なうちに文書と契約の形で残しておくことです。正直なところ、多くのご家庭が「まだ大丈夫」と後回しにしがちですが、備えは早いほど選択肢が増え、費用も抑えられます。一般的には、成年後見制度や信託、障害年金、グループホームなどを組み合わせて設計しますが、どれか一つで完結するものではありません。ケースによりますが、準備には数か月から1年以上かかることも珍しくないため、40代・50代のうちから少しずつ整えていくのが現実的です。
この記事のポイント
- 「親なきあと」対策の柱は【お金】【住まい・生活支援】【意思決定の代行・支援】の3つ
- 障害年金は障害基礎年金1級で年約103万円、2級で約83万円が目安(2026年時点の一般水準)
- お金を残す手段は「成年後見」「家族信託」「特定贈与信託(6,000万円まで非課税)」などを使い分ける
- 住まいはグループホーム・入所施設・在宅+ヘルパーの3類型。待機期間が長いこともあるため早めの見学・登録を
- まず「相談する場所」を決めておくことが、親なきあと対策の第一歩
「親なきあと」問題とは何か、まず全体像をつかむ
「親なきあと」とは、障がいのある子を支えてきた親が高齢・病気・死亡などで支援できなくなった後、その子の生活をどう守るかという課題を指します。実は、この言葉が広く使われるようになったのはここ十数年のことで、医療の進歩などにより障がいのある方の平均寿命が延び、「親のほうが先に亡くなる」ケースが当たり前になったことが背景にあります。
よくあるのが、「今は自分が全部やっているから問題ない」と考えて、具体的な準備をしないまま親が体調を崩してしまうパターンです。親が担っていた「お金の管理」「役所や病院とのやりとり」「日々の見守り」が一気に宙に浮き、残された親族や本人が混乱してしまう。だからこそ、親が担っている役割を「見える化」し、誰に引き継ぐかを決めておくことが出発点になります。
備えるべきは大きく3つの柱
親なきあと対策は、次の3つに整理すると考えやすくなります。
一つ目は【お金】。生活費・医療費・住居費をどう確保し、誰が管理するか。二つ目は【住まいと生活支援】。どこで、誰の支援を受けて暮らすか。三つ目は【意思決定の代行・支援】。契約や財産管理、福祉サービスの利用手続きを本人に代わって、あるいは本人を支えて行う人をどう用意するか。
この3つは相互に関係します。たとえばお金を残しても、それを適切に管理する人がいなければ本人の生活は守れません。逆に管理する人がいても、原資がなければ意味がない。だから「どれか一つ」ではなく、セットで設計する必要があるのです。
準備は早いほど有利、その理由
準備を早く始めるべき理由は主に3つあります。まず、成年後見や信託などの制度は、親が判断能力・体力を保っているうちでないと選べる手段が限られること。次に、グループホームや施設は地域によって待機が発生し、見学・体験・申込みに時間がかかること。そして、きょうだいや親族と方針を共有し、納得してもらうにも対話の時間が必要だからです。
正直、すべてを一度に整えるのは大変です。ですが、「今年はお金の棚卸し」「来年は住まいの見学」といったように、数年計画で少しずつ進めれば負担は分散できます。
具体的な備え方 ―― お金・住まい・支援者をどう組み立てるか
ここからは、3本柱それぞれの具体的な方法と、よくある失敗を見ていきます。
お金を残し、管理する仕組みをつくる
まず土台になるのが公的給付です。20歳以降、障害基礎年金は障害の程度に応じて支給され、2026年時点の一般的な水準では1級で年間およそ103万円、2級でおよそ83万円が目安です(物価スライドで毎年見直されます)。加えて、自治体独自の手当や特別障害者手当(在宅で重度の場合、月2万円台)などが受けられることもあります。まずはお住まいの市区町村窓口で、受けられる給付を確認しておきましょう。
その上で、親の資産を「どう残すか」を考えます。代表的な選択肢は次の通りです。
家族信託は、親が元気なうちに信頼できる家族などに財産管理を託す仕組みで、柔軟な設計ができる一方、初期費用として財産額の1%前後(数十万円〜)の専門家報酬がかかることがあります。特定贈与信託は、特別障害者へ6,000万円まで(特別障害者以外の特定障害者は3,000万円まで)贈与税が非課税になる制度で、信託銀行などが本人へ定期的に生活費を渡してくれます。生命保険信託を使えば、保険金を一括ではなく分割で本人に届けることも可能です。
よくある失敗が、「まとまったお金を本人名義の口座に残しておけば安心」と考えてしまうこと。本人が管理できない場合、口座が凍結されたり、悪意ある人に使い込まれたりするリスクがあります。「残す」だけでなく「誰がどう管理して本人に渡すか」までを設計するのが肝心です。
住まいと生活支援の場を決める
暮らしの場は、大きく3類型あります。
一つ目はグループホーム(共同生活援助)。数人が世話人の支援を受けながら地域で暮らす形で、家賃補助(月1万円上限)が使えることもあり、費用は本人の年金と工賃の範囲で収まるケースが多いです。二つ目は障害者支援施設への入所。手厚い支援が必要な場合の選択肢ですが、地域によっては待機が長くなることもあります。三つ目は在宅で暮らしながら居宅介護(ヘルパー)や生活介護、就労支援などを組み合わせる形です。
選び方のポイントは、本人の障害特性・支援の必要度・本人の希望の3つ。実は「親の安心」だけで決めると、本人が環境になじめず不調になることもあります。可能な限り本人を見学・体験に連れて行き、本人の反応を確かめながら選ぶことをおすすめします。どこも一長一短なので、複数を見比べるのが失敗を防ぐコツです。
意思決定を支える人を用意する
本人が契約や財産管理を一人で行うのが難しい場合、成年後見制度が中心的な選択肢になります。判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型があり、家庭裁判所が選任します。親族が後見人になることも、司法書士・弁護士などの専門職が就くこともあります。専門職の場合、報酬の目安は管理財産額に応じて月2万〜6万円程度です。
一方で、成年後見は一度始めると原則として本人が亡くなるまで続き、途中でやめにくい・費用が継続する、といった注意点もあります。ケースによりますが、財産が多くない場合は「日常生活自立支援事業」(社会福祉協議会による福祉サービス利用援助、利用料は1回1,000円程度)で足りることもあります。制度の重さと必要性のバランスを、専門家と相談して見極めましょう。
そしてもう一つ大切なのが、制度ではカバーしきれない「見守り」と「情報の引き継ぎ」です。本人の病歴、服薬、好き嫌い、こだわり、緊急連絡先などを一冊にまとめた「サポートブック(親心の記録)」を作っておくと、支援者が変わってもスムーズに引き継げます。これは費用もかからず、今日からでも始められる備えです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 親なきあとの準備は、何歳ごろから始めるべきですか?
A1. 決まりはありませんが、親が40代〜50代のうちに着手するのが理想です。制度選択の幅が広く、数年かけて無理なく進められます。遅くとも親が65歳を迎える前に、お金の棚卸しだけでも始めておくと安心です。
Q2. 成年後見と家族信託は、どちらを選べばよいですか?
A2. 目的が違うため、併用も含めて考えます。成年後見は「身上保護(契約・手続きの代行)」に強く、家族信託は「柔軟な財産管理・承継」に強い制度です。財産管理は信託、契約や福祉サービス利用は後見、と役割分担するケースもよくあります。
Q3. きょうだいに負担をかけたくありません。どうすれば?
A3. きょうだいを後見人や信託の受託者にせず、専門職や信託銀行に任せる設計が可能です。費用はかかりますが(専門職後見で月2万〜6万円が目安)、きょうだいは「見守り役」に徹する形にでき、関係が長続きしやすくなります。
Q4. お金が十分にない場合でも、できる備えはありますか?
A4. あります。障害年金や各種手当の申請漏れがないか確認し、家賃補助やグループホームなど費用を抑えられる暮らし方を選ぶことが第一歩です。財産管理も、費用の安い日常生活自立支援事業(1回1,000円程度)から検討できます。
Q5. サポートブック(親心の記録)には何を書けばよいですか?
A5. 本人の基本情報、病歴・服薬、アレルギー、コミュニケーションの取り方、好き嫌いやこだわり、1日の過ごし方、関わっている支援機関と連絡先などです。費用ゼロで今日から作れる、最も手軽で効果的な備えの一つです。
Q6. 施設やグループホームは、すぐに入れますか?
A6. 地域や事業所によって差が大きく、空きがなく待機になることもあります。だからこそ、必要になってから探すのではなく、早めに複数見学・体験し、候補を絞って登録しておくことをおすすめします。
Q7. 誰に相談すればよいか分かりません。まず何から?
A7. まずは市区町村の障害福祉窓口や基幹相談支援センター、相談支援専門員に「親なきあとが不安」と伝えるところから。お金・法律・住まいと相談先が分かれて分かりにくい時は、福祉の相談を横断的に扱う窓口にまとめて相談すると整理が早いです。
まとめ
- 「親なきあと」対策の柱は【お金】【住まい・生活支援】【意思決定の代行・支援】の3つで、どれか一つでは完結しない
- お金は障害年金・手当などの公的給付を土台に、家族信託・特定贈与信託(6,000万円まで非課税)などで「残し方」と「管理・受け渡し方」まで設計する
- 住まいはグループホーム・入所施設・在宅+支援の3類型。本人の希望と特性を軸に、早めに複数見学を
- 意思決定を支える人は、成年後見(専門職で月2万〜6万円が目安)や日常生活自立支援事業などを、制度の重さと必要性のバランスで選ぶ
- サポートブック(親心の記録)は費用ゼロで今日から始められる備え
- 準備は早いほど選択肢が増え、費用も抑えられる。40代・50代からの着手が現実的
親なきあとの備えは、制度も相談先も分かれていて、「どこから手をつければいいのか」「誰に聞けばいいのか」で立ち止まってしまう方がほとんどです。一つひとつは決して難しくありませんが、全体を見渡して順番を決めるのが、実は一番むずかしいところ。もし今、誰に・どこに相談すればよいか分からず不安を抱えているなら、まずは福祉のまどぐち(福祉の相談窓口)に気軽にお声がけください。お金・住まい・制度のことを横断的に整理し、あなたのご家庭に合った備えの一歩を、一緒に考えます。

